Road Show / 松任谷由実

タイトルの通りここ最近のシンプルな作風に比べるとやや情景描写多めの絵画的な歌詞が多いアルバムで、80年代後半以降は抽象的な歌詞が主体となっていたこともありこういう感覚は「ALARM à la mode」以来かもしれない。ただ80年代に戻っただけではなく「バトンリレー」「ダンスのように抱き寄せたい」のように老いや円熟味を感じるのもこれまでとは異なる良いアクセントになっている。

また、このあたりからやや声に衰えを感じる部分が出てきており、この時点で50代も後半を迎えていたこともあり寂しい気持ちもあるが、かつて声質が変わってきたときにそれを生かした「真夏の夜の夢」「砂の惑星」のような名曲を生み出したように、今作も「ひとつの恋が終るとき」「ダンスのように抱き寄せたい」のようにその声すらも魅力に変えてしまう曲も出てくるようになった。このあたりの転んでもただでは起きない姿勢は本当に尊敬する。

おすすめ曲

ひとつの恋が終るとき

曲名通り失恋がテーマの曲ではあるがただ悲しんでいるわけではなくサビ頭の「強くなる」というフレーズやメロのキャッチーも相まって力強さを感じる曲。サビ終わりにAメロのメロディを一部持ってくる構成も地に足が着くイメージで力強さに繋がっているように思える。

今すぐレイチェル

全体的に歌詞が印象的なアルバムの中で比較的メロやサウンドの方が印象に残る曲。淡々とした打ち込みやオケヒの使い方が「命の花」を彷彿とさせ、個人的に結構好きなサウンドだったりする。更にサビはやたらとポップでキャッチーになるのがインパクトに繋がっているように思う。

最後だけ突然ボコーダーだけになるのはどういう効果なんだろうか……これなんでやったのか聞いてみたい(笑)。

バトンリレー

メロと歌詞の噛み合い具合が好きな楽曲。具体的にはBメロで素直に展開させずに「それでも それでも走っている」と焦らすところとか、サビで少しずつ上昇していくメロディに対して「長い時間をくぐりぬけ」「長い坂道のむこうに」という歌詞を当てるところとか。ここ最近は作詞作曲がうまく噛み合った印象的な曲はあまりなかったこともあり久々にシンガーソングライターとしての凄みを感じる曲。

ダンスのように抱き寄せたい

大ヒットベスト盤「日本の恋と、ユーミンと。」に収録された最新最後の曲であり、00年代以降はもちろん全キャリアの中でも5本の指に入る大名曲。前述の通り老いをテーマにしており、昔のようなダンスは踊れないけどそれでも愛する「あなた」といつまでも踊り続けるという内容。歌詞の一言一句がズバズバと突き刺さり感動して泣きそうになる。感動する曲はたくさんあるけど泣きそうになる曲はこれくらいかもしれない。パッと聴きの派手さはないけどアレンジに関しても後半から出てくるどっしりとしたドラムやストリングスが感動を演出している。

ここ最近はアルバムとしては好きなものは多いけど単曲レベルで大名曲と思えるものはあまりなく、ここまでの感覚は「春よ、来い」以来。ベストで聴いた時点であまりの名曲っぷりに驚いたけどアルバムを順番に聴くと久々の大名曲にメチャ感動した。当時リアルタイムで聴いた人どう思ったんだろうか。

そしてこの曲はユーミンの決意表明のようにも見て取れ、ユーミンもこの曲の主人公の通り昔のように歌えなくなっても正隆さんと曲を作り続け、歌い続けるんだろうなと思う。