A GIRL IN SUMMER / 松任谷由実

前作に引き続き夏を感じられるアルバムで、夏や海をテーマにした楽曲が半分近くを占めている。ただ前作よりもメロが格段に印象に残り、良い意味での落ち着きと貫禄が出ている。80年代あたりは楽曲そのものは凄かったとはいえ背伸びしたものが多かったし、00年代以降はアルバムとしてはいいけど楽曲のインパクトは強くないことが多かっただけに、良い意味で肩の力が抜けていて、楽曲のインパクトもあり、アルバムトータルの良さも感じられるというのはそれこそ「MISSLIM」「COBALT HOUR」以来じゃないだろうか。かくしてついに「荒井時代は好きだったけど松任谷姓になってからは……」という人にも自信を持ってオススメできる名盤が来たように思う。

個人的にもほぼ全ての曲を断片的にでも記憶することができたのは「天国のドア」以来で、80年代中盤の名盤連発していた時期にも肩を並べていると思う。正直このレベルの満足度の作品は90年代半ば以降もう聴けないだろうと思っていただけに、ここまで聴いてきて本当に良かった。

おすすめ曲

海に来て

「Valentine's RADIO」あたりを彷彿とする良メロにマイルドなアレンジが程よくマッチした佳曲(というか「Valentine's RADIO」もアレンジが違えば結構名曲だったんじゃないかと思うけど)。波のSEが入るのも曲の雰囲気に合っており、良い意味での孤独や感傷を感じることができる。

哀しみのルート16

00年代以降の曲で大ヒットベストアルバム「日本の恋と、ユーミンと。」に収録された数少ない1曲で(他は「幸せになるために」「acacia」「ダンスのように抱き寄せたい」)、オリアル時点ではタイアップもなく特に知名度もなかったようであるがベストアルバム収録で知名度を上げた模様。

タイトル通りドライブミュージックが現代に蘇ったかのような歌詞で、とはいえ当時のようなイケイケな作風ではなく、「あなた」と一緒にいた昔の国道16号線の風景を懐かしむというもの。この適度な感傷に浸れる感覚が非常に心地良い。ベストアルバムで聴いた時点で数多く収録されている80年代の楽曲と並べても全く違和感なく聴けて、後で00年代の曲と知って驚愕した。

サビ?の「思い出が多すぎて」以降の部分について、最初の3音のみオクターブ上のハモリだけを使っているのが今までに聴いたことがなく最初気づいたときは物凄いアハ体験だったが、元々メインメロとハモリ両方レコーディングしていたけど後でメインメロだけ削除した感じなんだろうか? 何故こうしたのか本人達に聞いてみたい。

もうここには何もない

「キャサリン」あたりを彷彿とする大げさなブラスアレンジや3連符のやや怪しさを感じるメロも印象的ではあるが、惜しげもなく良メロを突っ込んだサビがインパクト大の楽曲。「Sunrise, good days」のメロを8小節展開して終わりにしてもいいのに「いつまでもここに~」でさらにインパクトのあるメロが展開して驚いたところ最後のダメ押しで「倒れた砂時計のように」の部分まで展開するのが天才的。

これまで溜めていた分を放出するかのようにラスサビでは冒頭のメロを繰り替えすのも、「いつまでもどこに」で無音になるのも、無限のカタルシスを感じる。当時52歳にして大量のメロディを生み出しておいてまだこんな良メロが出てくるのか。凄いとしか言いようがない。

虹の下のどしゃ降りで

シングルで出た曲だけど聴いたことなかった。当時関東でしか展開していなかったSuicaのCMソングということでそりゃ聴いたことないに決まっている。Bメロの突然の転調が凄まじく「中央フリーウェイ」あたりに近い衝撃を覚える。「中央フリーウェイ」同様に安心安定のシティポップ風味のアレンジも好印象。

Forgiveness

3拍子→5拍子の変拍子っぽく感じられるサビの美メロが「ANNIVERSARY」を彷彿とさせる。彷彿とはさせるが「ANNIVERSARY」と同じにならないところも含めて、改めて言うまでもないけどやっぱり作曲家として天才なんだなと思わされる。

ついてゆくわ

シングルで出た楽曲で、これまでのアルバムにも1曲はあった「安心安定のユーミン節」枠。このアルバム基本的に夏や海をテーマにした楽曲が目立ってはいるが後半は安心安定ユーミン節の楽曲多めで、そこがアルバム全体の好印象に繋がっているように思う。

Smile again (Yuming Version)

2005年の愛知万博のテーマソングのセルフカバー。万博テーマ曲ということで歌詞はベタな内容で自分みたいな心が汚れている人は対象外ではあるが(笑)、この曲も安定のユーミン節で満足度は高い。