acacia [アケイシャ] / 松任谷由実

1982年の「PEARL PIERCE」以来19年ぶりとなる夏発売、これまでほとんどのアルバムが10曲(一部9曲・11曲)だったのが突然14曲になる等トピックの多いアルバムではあるが、内容としては前作「Frozen Roses」の延長線上で多彩なアレンジが楽しめる。前作は普通のメロをアレンジで盛っていたのに対し、今作は曲の雰囲気を掴んで的確にアレンジした結果という印象で、前作よりブラッシュアップされたと思う。

ワールドミュージック路線の「哀しみをください」「110°F」、R&B/ソウル系で(当時)m-floのLISAさんをフィーチャリングした「リアリティ」、アコースティックな「acacia」、歌謡風味の「Lundi」、90年代初頭のハウス系の打ち込みを思わせる「7 TRUTHS 7 LIES」、ピアノ弾き語り「PARTNERSHIP」と、とにかくバラエティに富んだアルバムで、曲数が多いこともあるがその分好印象の曲も多い。実際ここらへんまではまだ売れてやろうと意思があったように思えるが今作もあまり売れなかったためか以降は外向きの曲は少なくなってしまう。商業作品としてのユーミンを色濃く残した最後の1枚と言えるかも。

個人的にこのあたりからリアルタイムでシングルの聞き覚えがある時期に来たため、やっとここまで来たかという感慨もある。最後に大名曲「PARTNERSHIP」で締められることもありアルバムとしての印象もここ最近ではかなり良い1枚。

おすすめ曲

MIDNIGHT RUN

ユーミンにしては比較的ギターが目立つ力強いバンドサウンドに乗せて「行く先もわからずに 走り続けていたんだ 恐くて」といった過去を振り返る歌詞が強烈。前作の「Now Is On」もそうだったけど常に先へ先へと進んでいたユーミンがこういう歌詞を書くようになったあたりに30年の重みを感じる。

acacia [アカシア]

この時期からは本当にベストに選曲されるような曲が少なくなっていくがその中でもいつもベストに選曲され有名曲の1つとして数えられるであろう数少ない1曲。個人的にはそこまで思い入れはないがアコギとバイオリンの綺麗な音色と丁寧な打ち込みのコラボレーションが素晴らしい。

幸せになるために

多彩なアプローチが印象に残るアルバムの中で唯一といってもいい安心安定ユーミン節。安心安定すぎてもう書くことなくなってるけどこの曲も感動を呼ぶ名曲。やはりアルバムの中に1曲はこういうのあると安心する。

サザン「TSUNAMI」、福山雅治「桜坂」のダブルミリオンを記録した「未来日記」タイアップのうちの1曲で、この曲も前後のシングルと比べるとヒットはしたが久々(にして最後)のTOP10入りかつ10万枚といった程度に落ち着いてしまった。ただ少なくともリアルタイムで接したユーミンの曲の中ではそれなりにヒットしただけあって一番印象には残っている。

7 TRUTHS 7 LIES〜ヴァージンロードの彼方で

90年代初頭のハウス系の打ち込みを思わせるアレンジで歌われるウエディングソング。当時と同様にTR-909っぽいドラムの音色で固めたアレンジや前作の「Rāga #3」でも使用されたオートチューンもそれなりにインパクトはあるがサビの5度を前後するメロディが歌上手くないとマトモに歌えないメロディで戦慄。音源では一応歌えてはいるけどこれ当時だとしても生歌どうだったんだろうか。

ドラマタイアップの主題歌でそれなりにかかっていた記憶はあるが、挿入歌でTOKIO長瀬さんが役名で歌った「ひとりぼっちのハブラシ」に印象を全部持っていかれたかわいそうな曲。どっちもいい曲なんだけどねぇ……。

PARTNERSHIP [after]

ピアノ1本で複雑怪奇なメロやコードに合わせて伴侶との人生を歌った深い1曲。ピアノ1本という全く誤魔化しのきかないアレンジで全く予測がつかないメロやコードが展開し続けて3分で終わるため、「うわーすげー」と思っている間に終わってしまう。シングルはもう少し色々とアレンジしているけどこれはピアノ1本の方が魅力が伝わると思う。あんまり売れなかったからかファン人気もあまり高くないみたいだけど、個人的には21世紀に出た曲だと「雪月花」「ダンスのように抱き寄せたい」「1920」あたりと並んで歴代ユーミンの楽曲でも相当上位に入る。

シングルで出た曲で当時シドニーオリンピックのタイアップだったみたいだけど全く聴いた記憶がなかった。確かにTVとかでパッと聴いただけだと魅力が伝わりにくい曲かもしれない。

それでもここ3作のシングルどれも90年代中盤と同じくらいのヒット性はあると思うんだけどドカンとヒットしなかったのは時代が悪かったよなぁ……。名曲だからヒットするとは限らないわけだけど、この3作に関してはどうにも巡り合わせの悪さを感じてしまう。