Wings of Winter, Shades of Summer / 松任谷由実

リゾート路線の代表格である「SURF & SNOW」のVol.2という触れ込みで制作された作品。ただし内容としては全くの別物で、冬の景色をしっとりと表現したアルバムとなっている(夏の曲もないこともないが全体的には冬の印象が強い)。むしろ全体的にしっとりとしている感触は「TEARS AND REASONS」あたりが最も近く、どれも佳曲揃いというのも「TEARS AND REASONS」と類似しているかも。

また10曲が標準であったユーミンのアルバムで7曲のミニアルバム形式というのもかなり異例。既存のアルバムフォーマットを下回る曲数というのは1981年の「水の中のASIAへ」以来となり、全曲ばっちりコンセプト通りである点も「水の中のASIAへ」以来かもしれない。全曲しっとりとしたコンセプトアルバムとなると後半にかけて飽きやすくなるという面もあるのでそういう意味では10曲を下回る曲数っていうのは丁度いいのかも。

そんなわけでここ数作とは全く異なる作品となっており、何よりも久々に良い意味で気負いのない、肩の力の抜けたアルバムになったと思う。こういう感触は少なくとも第2次ユーミンブームに差し掛かった1982年以降はあまりなかったと思うので本当に久々(「TEARS AND REASONS」「スユアの波」あたりもそれなりに肩の力は抜けている印象はあったけど今作はそれ以上かと)。言葉を選ばずに言うと、80年代以降「商品」となったユーミンはこのあたりで完全に賞味期限を迎え、改めて好きな音楽をやるようになった最初の1枚であったのかもしれない。

おすすめ曲

ただわけもなく

横一線なアルバムの中で一際メロディが綺麗な曲。Bメロでこっからサビが来るのかと思ったら一瞬焦らされてキャッチーなメロが出てきた後、ベタなメロディを繰り返すサビの流れが秀逸。

雪月花

しっとりとしつつもAOR~シティポップ系の曲が多いアルバムの中で唯一のバラードらしいバラード。ゆったりとした中にこれでもかというほど美メロが繰り出され、特に「春が来て 緑は萌えて」の転調のところは物凄いカタルシス。丁寧に歌われる歌詞の1フレーズ1フレーズも、ハープやベースがとても綺麗なアレンジも素晴らしく、最後の「哀しみにも時は流れ 海へと注いでゆく」のところはあまりの美しさに自然と涙がこぼれ落ちていくかのようなイメージ。というかベースがこんなに綺麗に感じられる曲なかなかない。

正隆さんから「バラードを作るように」と言われて5曲ほど作った中から厳選された1曲ということで、確かにそれだけのことはある名曲だと思う。21世紀に出た曲では相当上位に来る1曲。