天国のドア / 松任谷由実

約200万枚という当時の日本のアルバム史上最高売上を更新する大ヒットとなり、1990年にして来るCDバブルの幕開けとなった1作。あまりに凄まじいことになった売上や当時の無敵感からかどうにも「Delight Slight Light KISS」あたりから音楽が二の次になった印象がありこのアルバムもそういうバブルっぽいアルバムなのかと思いきや、前2作とは全く毛色が違う。Synclavierが使われているのは同じなんだけど、ケバケバしい感じはなくなり比較的スッキリとした打ち込みが主体となった。それに合わせてメロディのポップ感が大分戻ってきた。また、歌詞もここ数作の恋愛一辺倒な雰囲気から以前のような民族色強いものやスピリチュアルなもの、宇宙を感じるさせるもの、季節を感じるもの等、まるでこれまでの集大成のよう。バブル真っ只中、一足先にバブルから離脱したかのような雰囲気で、1990年なのでもちろん音作りに少々時代を感じる面はあるとはいえユーミンの全アルバムで一番好きな音かも。

そして何といっても曲が凄い。久々に全曲名曲といってもいいほどのクオリティで、さらにアルバムとしての統一感もあるという「REINCARNATION」「NO SIDE」あたりの無敵感や「PEARL PIERCE」の統一感が融合した感じの雰囲気。ただ過去に戻っただけではなく、「Miss BROADCAST」「Man In the Moon」のような新境地を切り開いたかのような曲もあり、まだまだ楽しませてくれるのではないかという期待も持った堂々たる名盤。どうにもバブルの雰囲気からかあまり巷の評価が高くないようであるが、個人的には松任谷姓で一番好きなアルバム。

おすすめ曲

Miss BROADCAST

女性キャスターをテーマにした曲で、来る情報化社会を見据えたかのような歌詞とアレンジがハマっている。情報が洪水のように流れてくる様を表現しているようなドラム連打なんかは生音じゃ絶対に表現できない世界だし、この曲に関してはSynclavierとの融合具合が見事だなと。

当時のライブでのブラウン管から出てきてコーラスの方々と猛烈にダンスしまくる映像も圧巻で、まさに全盛期といった感じ。

時はかげろう

スケールでかめの雰囲気や民族色強めなあたりが「REINCARNATION」や「SALAAM MOUSSON SALAAM AFRIQUE」を彷彿とさせるが、この曲もその2曲に負けず劣らず名曲。圧倒的な美メロで聴かせてくれる。

Aはここにある

Aは「エース」と読む。というわけで度々出てくる恋愛とスピリチュアル要素をミックスした曲。歌詞は正直よく分からないがサビで随所に挿入される「aha」が「Holiday in Acapulco」を彷彿とする感じで強烈なインパクトを与える。

Man In the Moon

ハウスちっくなアレンジが新鮮で一際印象に残る曲。今後も旦那の趣味なのかハウスっぽい曲は度々出てくるけど明確にハマっている曲はこれだけかなと思う。そもそもクラブテイストなアレンジはあまりユーミンに合っているとは思えないが、この曲に関してはこれまでのユーミンからは想像もつかなかった早口なメロが4つ打ちと見事にマッチしている。

基本的にピアノ弾き語りで作るというスタイルからは想像つかない曲ではあるが、こういう曲が出てくるようになったあたりからもライティングの幅が更に広がったことを感じさせる。

残暑

夏の涼しさを感じさせる曲に一切の外れがない法則。この曲もメロやアレンジに心地よい夏を感じることができる文句ない名曲。

天国のドア

タイトル曲ではあるが知名度は低く、ファン人気もあまり高くなさそうな印象がある。というのも歌詞が「したいのはやく」とか「あなただけの呼び方で」とかあまりに直接的で聴いた人全員ドン引きしそうな感じで……(笑)。ユーミン基本的に下ネタ大好きそうだけど露骨に性的な曲は驚くほど少ないので(「紅雀」収録の「罪と罰」くらいでそれ以降聴いた記憶ない)そういう意味では新鮮かも。深く考えずに聴くと「Aはここにある」同様にキャッチーで普通にいい曲。

SAVE OUR SHIP

このアルバムだと一番知名度が高い曲か。そもそもこの曲含めて有名なベストにどの曲も収録されないのでどれが有名なのかあまり分からないが……(名曲の大連発ではあるが大名曲はない印象なのでそのせいかも)。

人生を航海に例えたような「VOYAGER」あたりにあった雰囲気の曲であるが、大海を思わせる曲に一切に外れがない法則の通り、この曲もスケールでかめのメロやアレンジが見事にハマった名曲。実は6分もある大作なんだけどそれだけのスケールを持った曲なので全く長さを感じない。