そしてもう一度夢見るだろう / 松任谷由実

ここ数作あったような季節感は特にない、後の大ヒットベストアルバム「日本の恋と、ユーミンと。」への収録曲がない、ファンの間でも共通と思われる名曲はない(「人魚姫の夢」は紛れもなく名曲だと思うけど)、収録曲数は従来のデフォルトの10曲……といった感じで特筆すべきところが全くなく今までで一番特徴のないアルバムではあるが、00年代入ってからはアルバムトータルでは非常に味わい深いという部分はそのままであり、今回も非常に安心安定感のあるアルバムとなっている。

強いて特徴を挙げると「Flying Messenger」「人魚姫の夢」等の比較的歌謡曲に寄ったメロディが多めになっている。日本人に合うメロディということもあり個人的な位置付けとしては前々作「VIVA! 6×7」よりは印象的、「スユアの波」あたりと同じくらいの印象といったところ。アルバムとしての満足度は相変わらず高い。

おすすめ曲

黄色いロールスロイス

加藤和彦さんとのデュエット曲で、この曲の発表間もなく自殺したためおそらく生前最後に近い楽曲と思われる。度々出てくるギターサウンド系の曲ではあるが、アレンジも加藤さんが当時結成していたバンドでのアレンジとなっており、正隆さんは参加していない模様(プロデュースとしてのクレジットはある)。その影響かこれまでのユーミンのロック調の曲にあったダサさが全くない。ユーミンとしてはほぼ唯一無二と思われるキーボードの音がないバンドサウンドが楽しめる貴重な1曲。

Bueno Adios

こちらもユーミンとしてはかなり珍しいタンゴ調の曲。メロディがかなり歌謡曲に接近していることもあり、アルバムの中でもとりわけ印象的な楽曲になっている。特に昭和の頃は歌謡曲っぽいものは意図的に避けていたように思えるが、J-POPが主流となり歌謡曲が珍しい時代になったこともあり一周回ってこういうアプローチもありだなと思える。

人魚姫の夢

YUMING SPECTACLE SHANGRILA III」のための書き下ろし曲で、シャングリラの世界観に合致したかのような深みと貫禄を感じる楽曲。この曲も歌謡曲に近いメロディということもありアルバムの中でも一際強い印象を残している。人魚姫の叶わない恋を表現した歌詞も印象的で、個人的にもアルバムの中でダントツに好きな1曲。