スユアの波 / 松任谷由実
やや迷走気味に感じられた前作が嘘のように全曲安心安定ユーミン節のミディアム系で占められたアルバム。やや地味に感じられる側面はあるんだけど、ここまでの統一感および安心感はここ数作ほぼなく、それこそ「PEARL PIERCE」くらいまで遡るんじゃないだろうか。大名曲はないけどどれも佳曲揃いというのも「PEARL PIERCE」と類似しており、少なくともここまで聴こうと思った人であればガッカリすることはないと思われる。
強いて特徴を挙げると久々に出たサーフィンソングの「セイレーン」や、「時をかける少女」の歌詞だけ引っ張って新たなメロディーを付けた「時のカンツォーネ」等、過去を思い起こさせる曲が多めで、実際にテーマも「時空のサーファー」ということらしい。常に時代の先へと動いていったユーミンと正隆さんが過去を振り返るアルバムを作ったのはおそらく初めてと思われるが、後追いならともかくリアルタイムで経験していると過去の人になってしまった、過去に頼っている、という印象は生まれてしまうのかも。実際にセールス的には一気に厳しいことになり、1981年から続いた17作連続1位(!)が途切れた。一気に時代が移り変わってしまったが、この時期、音楽に限らず人々の趣味嗜好が細分化されたことや、日本を取り巻く情勢の変化もあり、これまで時代の先を行っていたはずのユーミンが時代を読めなくなったのかな、と思う。良いことなのかどうなのか分からないけど。
おすすめ曲
セイレーン
相当久々のサーフィンソングで(SURF & SNOW以来聴いていない気がする)それだけで懐かしいんだけど、歌詞は当時の能天気な世界観とは全く異なっており、直接的にサーフィンを歌っているのでなくサーフィンを通して失った青春を取り戻すというのがテーマになっている。年数の重みを感じる曲。ディレイの効いたギターやもの悲しげな曲調も歌詞の雰囲気の形成に一役買っており、一気にアルバムの世界に引き込まれる。
きみなき世界
どれも横一線の中で一際目立つ名曲。メロの切なさやファルセットやストリングスの多用がやたらと印象的な曲ではあるが、その中でもシンプルかつ繰り返しの多い歌詞が曲を更に引き立てている。ユーミンの歌詞は緻密な情景描写が多かったが80年代後半あたりからそういった作詞は減ってきており、当時とは大分毛色が変わってきたことを感じさせる。
時のカンツォーネ
1997年に公開された映画「時をかける少女」の主題歌で、先述の通り「時をかける少女」の歌詞だけ引っ張って新たなメロディーを付けた曲。曲自体が時を超えていることを示したものと思われるが、同じ歌詞でこれだけ違う印象の曲を作れるのかと驚いてしまう。実際歌詞を伏せて聴いたらどう思うのか分からないけど、個人的にはこの歌詞じゃなくても切ないメロが好きで結構好印象の曲になったんじゃないかと思う。