VOYAGER / 松任谷由実

タイトルから連想される通り航海や宇宙がテーマのアルバム。以前より海をテーマにした名曲が多かったこともあり、今作も大海を思わせる「青い船で」「TROPIC OF CAPRICORN」のような曲はあるが、直接関係ないような曲も多くあり、ユーミン節炸裂の名曲「ダンデライオン」や、あからさまにF1層ターゲットの「ガールフレンズ」「結婚ルーレット」「ハートブレイク」もあり全体的な印象としては前作同様に高クオリティ商業ポップス集といった趣。アルバム全体としての統一感は少々希薄ではあるけどどれも名曲佳曲揃いなので聴いてて楽しめる。というかここらへんから80年代後半までは変わらずどれも名曲佳曲揃いなので新しく書くことがなくなってくるが、いずれにしてもこのクオリティを数年に渡って維持し続けたのは凄い。

個人的な印象では前後の「REINCARNATION」「NO SIDE」よりは優先度は落ちてしうまけど、それはその2枚が良すぎるだけでこれも十分すぎるほど満足度は高い。唯一惜しいのは恐らくタイトル曲になると思われた「VOYAGER ~ 日付のない墓標」がタイアップ先の映画の公開が遅れてアルバム収録されなかったこと。これ入ってたらかなり締まってたと思えるだけに勿体ない。

おすすめ曲

ダンデライオン〜遅咲きのたんぽぽ

代表曲の1つで安心安定ユーミン節炸裂の名バラード。バラードといっても近年ありがちなストリングスで盛大に盛り上げるという感じではなく所々でしっかり聞かせるコーラスやハープが印象的で、正隆さんこういう要所要所でリスナーの注意を引くようなアレンジが得意そうなイメージがある。

青い船で

曲名通り船旅をテーマにした曲で、比較的淡々としているバラードながらも壮大なスケールを感じる。特にあまりに自然な転調からラスサビが来る部分が同じメロなのにスケールアップして聴こえるのが恐ろしい。以前より大海を感じさせる曲に外れ無しと言っているがこれも名曲だと思う。

ハートブレイク

あからさまにF1層ターゲットの曲でアルバム冒頭に収録された「ガールフレンズ」と印象ダダ被りではあるが、メロディがドキャッチーで完璧な曲。Bメロからドキャッチーで引き込まれるけどサビ最後の「感謝して別れるのは小説だけ」のメロディと歌詞の噛み合い具合が凄いというか、思いついても大抵の人は歌いたくなさそうなメロディを堂々と歌ってしまうところに戦慄。

ユーミンのボーカルは正直お世辞にも巧くはないので歌の評価は後になってくるんだけど、この曲に関してはノンビブラートが映えている印象でこの声でしかありえない気がする。

TROPIC OF CAPRICORN

曲名は「南回帰線」の意。大海を表現したと思われる?オクターブをこれでもかというほど多用したピアノアレンジが完璧すぎてうっとりしてしまう(笑)。この時期の正隆さんのアレンジは絶好調と言う他なく、楽曲の魅力を余すところなくデコレーションしてくれる。多用されるスラップベースも良い味を出している。

時をかける少女

言わずと知れた代表曲かつ原田知世さんへの提供曲。提供曲ということもあってアルバム内でもひときわポップで、名曲佳曲揃いなアルバム内でなんだかんだ一番印象的なのはこの曲かも。やや歌詞が幼いのでこの時点で30近かったユーミンが歌うには少々違和感がなくもないが、セルフカバーという前提で楽しむのが正解か。