REINCARNATION / 松任谷由実

タイトル通り輪廻転生がテーマ。とはいえ実際にそのようなテーマに近い曲はタイトル曲を除くと同じく超常現象が歌われる「ESPER」と時の移り変わりを表現した「経る時」くらいで、それ以外は前作のようなF1層に向けた曲や、シティポップ風味、はたまた荒井時代を思わせるポップな曲等、様々な曲が入り交じっている。とはいえ雑多というよりは純粋にクオリティの高いポップス集として楽しめるアルバムで、このあたりでユーミンは完全に時代を掴んだように感じる。

とにかく全曲バッチリ耳に残る名曲の連打連打連打で漲る自信を感じる。先述したように様々なタイプの曲があるため、ライトに楽しみたい層もコアな層も最大公約数に楽しめるアルバムだと思う。アップテンポの曲が目立つが、「心のまま」「ずっとそばに」「経る時」等の落ち着いた曲も名曲がズラリと揃っており、最後まで飽きない。

ここからのユーミンは派手なライブはもちろん、数々のアイドル・アーティストへの曲提供や年1のアルバムリリースの恒例化等どんどん凄まじいことになっていくが、その凄まじい活動に見合った商業音楽を次々とリリースしていくわけだから恐ろしい。後追いで聴いてもここから80年代後半頃までのアルバムのアベレージの高さはとんでもないことになっており、その中でも80年代で1,2を争うほど好きなアルバム。

おすすめ曲

REINCARNATION

タイトル曲。愛の輪廻転生がテーマで、元々1981年の時点で別の歌詞で披露されていたが歌詞を変えて収録された。個人的には当初の歌詞の方が好きというか、アルバムに入った方は何かと恋愛要素を入れたがる小説の映画化みたいな印象ではあるが、それでも異世界にワープしたかのような不思議なメロディとアレンジは今聞いてもなかなか面白く、1983年時点ではかなり斬新だったのでは。この1曲だけで更に1段上のステージに上がったことが分かる大名曲。

オールマイティー

「REINCARNATION」の最後のギターソロから間髪入れずに入るこちらもアップテンポな楽曲。管弦楽器の主張の激しさやサビメロに合わせたタムの音が時代を感じるがメチャクチャにインパクト大。

星空の誘惑

メロの感じはともかくアレンジは完全に「埠頭を渡る風」ではあるが、「埠頭を渡る風」同様にスリリングかつ16分を多用した管弦楽器のフレーズがとても印象的。全体的に派手な曲の印象が強いこのアルバムの中でも最も派手で、一発で耳に残った。

川景色

派手派手な曲に囲まれた中では完全に箸休め的な位置づけの曲ではあるが、シンプルなメロとアレンジにもかかわらず特にサビが短いメロの組み合わせであることもありやたらとキャッチーで当時の好調さが現れている。

心のまま

アルバムの中では比較的スローテンポの曲ではあるがこれも勢いがある。冒頭の「Hurry up」のところがサビなのかと思ったらその後別のサビが来るところがインパクト大。そのサビの流暢なメロディやストリングスのラインが歌詞も相まって大海を感じさせ、大海を感じる曲に外れがないユーミンらしく、この曲も名曲だと思う。

ずっとそばに

こちらも落ち着いた曲ながらメロディのポップさが印象的。Bメロでマイナー調になってまたサビでメジャー調に戻るところが自然な流れで気持ち良い。

経る時

「ふるとき」と読む。かつて九段下にあったフェヤーモントホテルから見る桜を舞台としており、桜の「降る」と時の「経る」をかけたタイトルは「海を見ていた午後」と並んで俳句の領域。桜をモチーフにして四季の移り変わりが表現されており、それに従うかのようにゆったりと自然に転調する。時の移り変わりをテーマとした曲はユーミンには多くあるが、その中でも随一の出来。

ベストにあまり入らないので一般知名度はあまり高くないが各所で大絶賛されている大名曲で、特に桜の散る様を表現した「四月ごとに同じ席は うす紅の砂時計の底になる」は名フレーズ。他の部分も一言一句取り上げたいほどに名フレーズの連打で感動的な気持ちになる。ユーミンの数ある名曲の中でも一番好きな曲。