流線形 '80 / 松任谷由実

前作の流れで聴くとポップな曲大連発で面食らう1作。とはいえこれは「紅雀」の次に聴いているからで、例えばこれが「COBALT HOUR」や「14番目の月」の次の作品と言われたら納得、といった感じのクオリティの高いポップスアルバム。冬のリゾートを歌った明るい曲が多めで、このあたりは後の「SURF & SNOW」に繋がるリゾートミュージック路線がこの時点であったことを感じさせる。また、後に「恋愛の教祖」と言われるような側面も多々あり、80年代の作家としての全盛期の片鱗が見える最初の1作と言えるかも。そこを踏まえて聴くと1978年に発売されたにもかかわらずこのタイトルなのは予言みたいに見えて恐ろしい。

そして何よりも曲のアベレージが高い。同じくポップ路線だった「14番目の月」よりもメロも歌詞も幅が格段に広がった感じで、気合が入った1作であることを感じる。この路線で突き進んで行くのかと思いきや、次回作以降また色々と試行錯誤を繰り返すので今も連想される80年代の路線に行くのはもうちょっと後になるけど……。

1978年の作品なのでやや時代を感じる面はあるにせよ、ポップな曲が好きであればまずもって外さない1作なので、荒井時代しか知らなくて「COBALT HOUR」「14番目の月」あたりが好きであれば聴いて損はない。

おすすめ曲

埠頭を渡る風

曲が完全にStevie WonderのAnother Starであるが、この曲の持つスピード感を引用し、メロや歌詞の持つスピード感を融合させてしまった名曲。当時の日本にはまだこういう16ビートを持つ曲はほとんどなかったはずなのでかなり新鮮だったのでは。個人的にもベストに既に聴いててかなり印象が良かった曲の1つ。

真冬のサーファー

イントロの達郎さんのコーラスがいきなり強烈なので完全に誰の曲なのか分からなくなってしまう感じだけど、曲名通りユーミンの数あるサーフィンソングの中でも初めの1曲になるだろうか。先述の通りコーラスの持つパワーが凄まじく、アウトロの多重コーラスもお腹いっぱい楽しめる。

魔法のくすり

恋の処方箋がテーマで、後に恋愛の教祖として崇められるユーミンの原型となる楽曲の1つ。名言を引用した「男はいつも最初の恋人になりたがり 女は誰も最後の愛人でいたいの」は引用だから当たり前なんだけど曲とピッタリ合った名フレーズ。

かんらん車

後の「経る時」と並んで初めて聴いた瞬間から衝撃を受けた曲の1つ。失恋した主人公が1人寂れた遊園地の観覧車に乗るという曲で、「ゆるやかに空は巡りはじめ」の歌詞とメロとサウンドの融合っぷりが凄まじい。こんなに全てが噛み合っている曲はそうそうなく、ユーミンの曲で10曲選べと言われたら確実に入る大名曲。ファン人気もかなり高いらしいが納得。

12階のこいびと

これまた期待を裏切らないポップな1曲ではあるが、最後に突然飛び降り自殺の予告が出てきて唖然とする。このあたりの独特の死生観は松任谷初期まで度々出てくるけどどれもシュールでやはり独特な感性を持った人であることを思い知らされる。