昨晩お会いしましょう / 松任谷由実

松任谷姓になってからしばらくシングルヒットがなくアルバムの内容も試行錯誤が続いたが、「守ってあげたい」が大ヒットしたことで自信を取り戻したのか、安心安定シティポップ路線が全面に押し出されている。全体に漂うアーバンな雰囲気は松任谷姓になってからはなかったもので、純粋に聴いてて心地良い。歌詞に関しても「守ってあげたい」の強い女性像、「カンナ8号線」の恋愛の教祖としての側面が出ており、商業作家としてのステージに立ったことを感じさせる。商業作家としての全盛期を迎える最初の一歩となった記念すべき作品。

おすすめ曲

タワー・サイド・メモリー

神戸をテーマにした曲で、神戸ポートタワーやモノレール(おそらく現在神戸空港まで伸びているポートライナーのことと思われる)等が登場する、神戸のアーバンな空気がシティポップのアーバンな雰囲気と見事に絡み合った名曲。

何回か神戸に行った身からするとこのアーバンな雰囲気はたしかに神戸の雰囲気にマッチしていて素晴らしい。実際のところ震災の影響もあり、この曲で描かれている神戸の情景と今はまた違うのかもしれないけど……。

守ってあげたい

言わずと知れた代表曲の1つ。全編ファルセットのサビやポップなメロディが印象に残るが、歌詞についても曲名通りどこか後の女性上位時代を思わせるような出来で、これから快進撃を繰り広げるユーミンの最初の一歩であったことが頷ける。

個人的にこの曲なんとなくユーミンのパブリックイメージと違う印象で、ベストで聴いた時点でもあんまり強く記憶に残る曲ではなかったんだけど、アルバムの流れで聴くと結構しっくり来てようやくユーミンの曲として受け止められた気がする。

カンナ8号線

こちらも代表曲の1つ。今はもう別れてしまった相手を思い出しに環状八号線に来たがもう当時の二人はいない、という内容の曲。各所で指摘されているが、中央分離帯にある花という描写が秀逸で、なかなかできる表現じゃないなと思う。

歌詞の秀逸さについての言及が多い曲ではあるが、それを抜きにしてもブラスやストリングスが全面に出た派手なアレンジはこのアルバムの中ではかなり目立っており(むしろ浮いている気もするけど)、純粋にいい曲。

A HAPPY NEW YEAR

これもベストに入っていたので代表曲の1つ。曲名通り新年を祝う曲であるが、単純にハッピーな曲というよりは静かに「あなた」の幸せを願うバラードで、アルバムを丁寧に締めくくる。