OLIVE / 松任谷由実

前作の流れで聴くとまた雰囲気が全然違って衝撃を受けるアルバム。松任谷名義になってから第二次ブームを迎えるあたり(1981年くらいまで)は1作ごとに作風がガラリと変わり、当時の試行錯誤が伺える。

今作は比較的歌謡曲色が強いのが特徴で、「未来は霧の中に」「ツバメのように」「帰愁」あたりは特にアクが強く感じ、「最後の春休み」なんかも露骨に80年代アイドル歌謡っぽい感じがする。元々歌謡曲とは全く違うジャンルからキャリアをスタートさせているので歌謡曲に近いアルバムは特に昭和においてはこれくらいしかない。ただ、それ以外は前作の路線に近いポップな曲もあり、荒井時代に近い素朴なバンドサウンドもありで、それらの曲が雑多に入り交じる。アルバムとしての統一感はあまりないが、独特の味のある曲が多く、たまに1曲1曲取り出して聴きたくなる。

あと「MISSLIM」から度々参加していた達郎さんは自身の曲が売れて忙しくなったこともあり、このアルバム収録をもってユーミンの制作から離れた。達郎さんのコーラスワークはどれも好きなものが多かったため名残惜しく感じる。

おすすめ曲

未来は霧の中に

1964年東京オリンピックと1969年の月面着陸を振り返り、その時点では未来は分からなかったとするシュールな歌詞ではあるが、2020-2021年の東京オリンピックが本当に開催されるかも分からないような情勢にピタリ合致していてなかなかに味わい深い。このタイミングで聴けて良かった。

最後で「そのうち誰かが火星に降りても もう愕かないでしょう」と歌っているが、2020年代に至るまで誰も火星に降りてないし何なら月面にもそれ以降着陸していないのは笑えてくる。先述したような歌謡曲臭が漂うメロディ含めて時代性を感じる1曲。

ツバメのように

これは正直おすすめしにくい曲であるが印象には残るので。

容姿を否定されたショックでビルから飛び降り自殺するという衝撃的な内容で、その経緯から歳末まで具体的な描写含めて描かれるという本当に救いのない曲。荒井時代から夭逝の憧れを描いた曲や、この後も自殺する曲とか独特のスピリチュアルを持った曲とかが度々出てくるが、なんというか本当に不思議な人だなぁという感想。でもそういう側面も含めて描写するところが信頼できるというか、恋愛一辺倒ではないライティングの幅の広さに繋がっているように感じる。

最後の春休み

荒井時代に卒業をテーマとした超有名曲「卒業写真」があることもあり知名度は低いがこちらも超が付くほどの名曲。ポップなメロディに3連バラードというサザンの「栞のテーマ」を彷彿とする感じで(こっちの方が先だけど)、荒井時代初期にあった瑞々しさが戻ってきたような安心感がある。卒業後の春休みにクラスメイトのいない学校で好きな人に思いを馳せる、という内容でキラリと光る情景描写の連続にキュンキュンしてしまう。アルバムの中でもダントツに好きな曲。

ただ、「卒業写真」同様にあえてと思われる幼稚な歌唱はやはり下手なだけに聞こえる(笑)。ユーミンの歌唱はこれはこれで味があるので数あるカバーを聴いてもしっくり来ないことが多いが、この曲に関してはハイ・ファイ・セットによるカバーの方がしっくり来る。

帰愁

ユーミンの曲で最も歌謡曲臭が強いというかモロに歌謡曲(「魔法の鏡」とかもアレンジや歌唱が違えばモロに歌謡曲なんだろうけど)。「コンドルは飛んでいく」を彷彿とさせるイントロやユーミンらしくない「ラララララ」「なみだ雲ばかり」等の言葉遣い等も含めて相当異端とも思える曲で強烈なインパクトを残している。本人が嫌いな曲とのことではあるが、あまりに異端な曲なので分からなくもない。

稲妻の少女

聴いた誰もが前作の「真冬のサーファー」を彷彿とさせるであろうサーフィンソング。イントロの達郎さんのコーラスのせいでユーミンの曲に聴こえないところも含めて印象丸被り。でも曲は非常にポップでキャッチーで、こっちのほうが好きかも。「エンジン・フードで卵が焼けるほど」の具体的な描写もとてもキャッチー。