First Love / 宇多田ヒカル

衝撃のデビューアルバム。デビューするや否やあっという間に話題になってしまい、後に藤圭子さんの娘という情報も伝わると上の層にまであっという間に伝搬した。そんな最中で出たアルバムということもあり、約750万というシングルアルバムアナログCD問わず日本で最も売れた盤となり、以降破られることがなかった。

とにかく登場そのものの衝撃や史上最高売上みたいな印象ばかり先行しているが、サウンド面でも当時のJ-POPに革命を起こしたアルバムで、当時MISIAさんくらいしかしていなかったR&B系のかっちりとした打ち込みサウンドを日本人好みのメロディに載せてしまうという、それまで小室哲哉さんがしていたことの上位互換みたいなことをあっさり実行してしまった。アルバムの大ヒットを受けて当時活動していた様々なアーティストがR&B系の曲を出したり、R&B系の新人がわんさかデビューしたりと、少なくともこの先5年くらいは音楽的にも多大な影響を残した。

そのような多大な影響を残した反面、アルバム単体の印象としては前半ばかりが強い竜頭蛇尾のイメージで、曲を進めるごとにどんどん印象が落ちていく。このあたりはリード曲や冒頭数曲だけやたらとインパクトが強い洋楽のポップスアルバムのようなイメージがある。後のアルバムに見られるような独特の歌詞や自身による打ち込み等のトピックもないため一番売れたにもかかわらず実は最も特筆するところがないアルバムで、このあたりは最初のアルバムなので当然といえば当然か。これだけのインパクトを残しておいて後に更に飛躍してしまうのは天才としか言いようがない。

おすすめ曲

Automatic

デビューシングルにしていきなり200万枚を売り上げてしまった代表曲の1つ。当時のJ-POPにはほとんどなかったR&B系のかっちりとしたサウンド、「な なかいめのベ ルで受話器を取った君」のような当時のJ-POPにはほとんどなかったような奇妙な譜割り、やたらと低い天井で歌っているMV等、全てが斬新すぎて全国民に強烈なインパクトを残してしまった。当時の衝撃を抜きにして聴くと今となってはわりと普通のJ-POPの1つであり、やはりこのあたりは当時を経験していないと衝撃が伝わらないかも。深く考えなければ今聴いても楽しい名曲の1つ。

Movin' on without you

2ndシングルにしてこのアルバムはもとより全キャリアの中でも上位に来る名曲。まさにJ-GARAGEの代表曲といっても差し支えないオシャレなサウンドで当時は前後のシングルに隠れてしまっていた印象ではあるが、後年になってとんでもない曲という評が広まったように思える。

歌詞の冷めた女の視点はとても当時15歳と思えないくらいに大人びているが、家庭が家庭ということもあり幼少期から色々と吸収していたんだろうな……。

In My Room

インパクト絶大のシングル曲に囲まれていることもあり、あまりこの曲に関する評判を見ないが前後の曲のインパクトが凄すぎるだけでこれもなかなかに味わい深い名曲。淡々としたサウンドに適度に切ないメロディーも好みではあるが、特にサビの「夢も現実も目を閉じれば同じ」「ウソもホントウも口を閉じれば同じ」は名フレーズ。デビュー当初は登場そのものの衝撃やサウンドに関する評判の方が多い印象があるが、歌詞の面でも天才であったことが分かる。

First Love

表題曲であり代表曲の1つ。USのディーヴァにありがちな打ち込み主体の壮大バラードという印象ではあるが、歌モノとしても強烈に機能しておりカラオケでも人気という、まさにアメリカ人でも日本人でもあるという長所が強く生きた名曲だと思う。