ULTRA BLUE / 宇多田ヒカル

全米デビューアルバムを挟んだこともあり日本語としてはなんと4年ぶりのアルバムで、この間に本人単独アレンジに移行した(最も古いシングルの「COLORS」のみ河野圭さんとの共同アレンジ)。殆どが本人の軽い打ち込みと僅かなキーボードのみで構成されており、生ドラムの曲は既発シングルの「Be My Last」と「Passion」くらいしかない。全米デビュー前のシングル「COLORS」「誰かの願いが叶うころ」のみ浮いているが、既発シングル曲の散漫っぷりを考えるとうまくまとめた感のあるアルバムとなっている。

前作に引き続き歌詞もガラッと変化しており、特に日本での活動を再開した後の曲に恋愛関係での苦労が見え隠れする。「Be My Last」はまだタイアップ先の映画との兼ね合いもあったと思われるが、特に今回のアルバムの実質的なタイトル曲である「BLUE」や、浮気を歌った「Making Love」、旦那との喧嘩が元になっているという「WINGS」で顕著。直接的に言及していない曲でも比較的アップテンポな「This Is Love」や「Keep Tryin'」もいまいち煮え切らず、全体的に迷いが滲み出ている。前作が結婚宣言だとしたらこれはもう……と察したリスナーも多数いたようであるが、案の定半年後に離婚を発表した。色々思う部分はあるが、少なくともこの時期でなければ作ることはできなかったアルバムであることは確かで、そういう意味では貴重な1作。

なお、この時期はセールス的には最も苦戦していたと思われる時期で、全米デビューアルバムが全く売れなかったこともあり(これ単にレコ社がマトモに宣伝してくれなかっただけだと思うけど)、日本でも地味なシングルが続いたこともあるがシングルのセールスが激減していった。「Passion」とか曲は好きなんだけど、メチャクチャ分かりにくい譜割りとか取りにくいリズムとか、そういった部分も迷いの一面として現れているのかもしれない。そんな迷いも半年後、あまりにベタな「Flavor Of Life」の大ヒットで一気に払拭されるわけだけど。

おすすめ曲

BLUE

先述の通り今作の実質的なタイトル曲で、超高音で歌われる一言一句が強烈なサビが印象的。「どんなにつらい時でさえ歌うのはなぜ?」「どんなにつらい時でさえ生きるのはなぜ?」「全然涙こぼれない ブルーになってみただけ」等の魂の叫びが連続する上、更なるトドメとして「恋愛なんてしたくない 離れてくのはなぜ?」で全てを暴露してしまう。当時の本人のインタビューでも「歌詞のどこを取っても言いたいことが言えた」とか言っていたのもありもはやフィクションでは通用せず、当時の旦那との関係が伺える、このときでしか書けなかった曲。

Making Love

遠距離恋愛になった友達からインスピレーションを受けて作った曲とのことではあるが、遠距離になった彼が違う女性とMaking Loveしているという衝撃的な歌詞が一部で有名。一応フィクションの世界の話だとは思うけど、途中の「もしもお金に困ったらできる範囲内で手を貸すよ。私の仲は 変 わ ら な い」であえてスペースを開けているところとか、色々とシャレになってない。

全米デビューアルバムではこのような直接的に性的な歌詞とか、それ言っちゃうのかよ! とか突っ込んでしまうようなものがいくつかあったが、日本語の曲でもこのあたりから面白い言い回しが増えてきた。こういうのは純粋に聴いてて楽しい。

誰かの願いが叶うころ

既発シングル曲で、ほぼピアノメインでわずかにストリングスとアコギが出てくる程度のシンプルな曲であるが、その分強烈な歌詞が目立つ。「誰かの願いが叶うころ あの子が泣いてるよ」「みんなの願いは同時には叶わない」はこのシンプルなオケでこのボーカルで歌われるからこそ際立つ名フレーズ。デビューした頃はここまで言葉を重視した曲を作ることになるとは思わなかったが、「DEEP RIVER」あたりから徐々に言葉重視になってきたことが伺える。本人の魅力が十二分に出た大名曲。

結構前の曲ということもありアルバムの中ではかなり浮くのではないかと思ったけど、前曲「Making Love」のアウトロのエフェクトおよびノイズのSEが良い感じに作用しており、違和感はかなり少ない。このあたりからアルバムとしての流れを意識するようになったようで、シングル過多かつ昔の曲が多数含まれていてもアルバムとしてまとまって聞こえるようになったのはかなり大きい(「COLORS」は明らかに浮いているけど……)。

Be My Last

こちらも既発シングル曲で、「誰かの願いが叶うころ」同様にアコギピアノとシンプルな生バンドサウンド程度のシンプルな曲に「Be my last... どうか君が Be my last...」のみのサビが強烈。「誰かの願いが叶うころ」もそうだけど、シンプルな曲に強烈な歌詞にこの憂いのあるボーカルで歌われる魅力というのはこのあたりで確立したように思う。