Distance / 宇多田ヒカル

前作のR&B風味な音楽性はそのままに歌詞もアレンジもパワーアップするというシンガーソングライターの2ndアルバムらしい2ndアルバムで、既発のシングル曲が多いこともあるが前作に比べると最後までしっかり聞き通せるアルバムになっている。アレンジに関してはまだまだR&B風味なものが多いが、「ドラマ」「蹴っ飛ばせ!」等の生系のドラムやギターサウンドを持つ曲もあり、それでいてアルバムとしてのバランスを崩していないというのも何気に凄いことかも。

また、歌詞の面で孤独や他者の関わり方から真っ向勝負したものが多めで、特に「Wait & See 〜リスク〜」「For You」のシングル曲や表題曲に顕著。他者に関わり方について、「1つになりたい」とか「孤独を感じる」とかのJ-POPが多かった当時において「結局、1点にはなれない」「必ず距離は生まれる」というテーマの歌詞はほとんどなかったように思う。後年まで評価されることになる歌詞の天才っぷりをまざまざと見せつけた作品で、歌詞の面で好きな曲が多いアルバム。

おすすめ曲

Wait & See 〜リスク〜

既発シングル曲で大ヒットを記録したのでおすすめ曲も何もないが、切ないメロディに孤独を歌った歌詞が強烈な1曲。と思いきや2サビ後の超高音フェイクの直後に続く歌詞が「キーが高すぎるなら下げてもいいよ」なのがとてもシュール。こういうシュールな側面は特に「ULTRA BLUE」以降に鮮明になっていくがそういった側面が現れた最初の1曲かも。

Can You Keep A Secret?

この曲も大ヒットを記録したシングルで、適度にメロウな曲に他者との距離感を綴った歌詞が印象的。やたらと連呼される曲名とかも含めて正しくヒット曲って感じ。とにかくこのあたりまでは出る曲出る曲TVで流れまくって大騒ぎしていた記憶。

DISTANCE

他者との埋められない距離感を明るいメロディで歌った曲で、同様のテーマを持つ「Wait & See 〜リスク〜」「For You」の切なさとはまた異なった角度で切り込んだ名曲。お互い分かりあえなくてもいいというスタンスは少なくともJ-POPにはあまりなかった世界観で、このあたりに欧米的な個人主義が良い意味で現れているかも。

後にバラード化してシングルカットしたけど、この歌詞を明るいメロディで歌うところに魅力的に感じるので個人的にはアルバムバージョンの方が好き。

For You

シングル曲にしてはかなり地味なサウンドではあるが、だからこそ孤独に真っ向から立ち向かった歌詞が際立つ衝撃の1曲。全文引用したいくらいに歌詞のどこを取っても重要なことしか書かれていないが、特にサビ頭の「誰かの為じゃなく自分の為にだけ優しくなれたらいいのに 一人じゃ孤独を感じられない」は宇多田ヒカルさんの全曲中でも上位に来る名フレーズ。

前述したようにシングルとしてはほとんど起伏のない淡々としたオケなのでここでミリオンを割ってしまったのは当然といえば当然か。個人的にも出た当時は両A面の「タイム・リミット」の方がメロが際立っている分好きで(こっちも相当に地味ではあるけど...)、こっちの評価がメキメキ上がってきたのは歌詞が理解できるようになってからだった。