Cowgirl Dreamin' / 松任谷由実
LAのミュージシャンによる生のバンドサウンドやストリングスを多用したアルバムで、既にシングルで出ていた「まちぶせ」(言わずと知れた石川ひとみさんのヒット曲のセルフカバー)も生のドラムに差し替えになっている。ここ数作は生音に戻ってきていたとはいえ海外録音の効果からか、かなりどっしりとしている。ストリングスを使っているのもかなり久々で、単曲レベルでも「SAVE OUR SHIP」くらいしか記憶がない。そんなわけでユーミンとしてはかなり新機軸なアルバムではある……のだが、「告白」「まちぶせ」の既発曲がアルバムの流れをブチ壊しているせいか巷で良い評価を全く見ない可哀想なアルバム。個人的にはこの2曲さえ入っていなければわりと90年代のアルバムでは標準ラインかなーくらいではあるが、あまりの浮きっぷりにこれまでのユーミンと正隆さんが長年作ってきたアルバムアーティストというブランドを壊してしまったかのような感じになってしまい、そこは勿体なかったなと思う。
この変化にユーザがどう反応したのかリアルタイムの空気を体感していないので何とも言えないが(自分が音楽に意識的に触れるようになった頃はもうユーミンは過去の大御所イメージが強かったので)、ここで一気にシングル売上が激減し、アルバムもここまで8作連続で続いていたミリオンを大幅に割ってしまった。これが1997年というのが象徴的で、かつてユーミンはバブル期に「私が売れなくなるとしたら都市銀行が潰れるくらいに日本が変わってしまった時」という旨の発言をしており、丁度この年に北海道拓殖銀行が破綻し、失われた10年が表面化したというのは偶然にしてはあまりに出来すぎ。売れなくなることまで分かっていて発言していたわけではないと思うが、結果的にユーミンの発言が予言として機能した。ユーミンが只者ではないと思い知らされる事例の1つ。
おすすめ曲
最後の嘘
やや迷走気味に感じるアルバム内で唯一安心安定ど真ん中ユーミン節炸裂の大名曲。先述した通り「SAVE OUR SHIP」以来と思われる生ストリングスが全体的に感動を呼ぶ作りになっており、毎回こんな感じだとクドいと思うけどたまに出てくる分には申し分なし。
この曲に関してはややボーカルが透き通って聴こえる感じで、声の印象は1993-1994年あたりに近い。実際MVの容姿もその頃に近いという指摘があり、実はその頃のアウトテイクだったりするんだろうか。だとしたらこの時期あまり曲がなかったということかもしれないのでちょっと複雑だけど。
Called Game
アルバム本編を(実質)締めくくる曲で、アコギの必要以上に主張しすぎず、でも存在感を発揮する演奏が見事。歌詞のテーマは野球で、タイトルも見ての通り「コールドゲーム」のもじり。ゲーム終了後の姿を見送るという「ノーサイド」にも似た世界観で、さすがに「ノーサイド」には及ばないがこれもなかなかの佳曲。