ひこうき雲 / 荒井由実
デビュー作にして後のJ-POPの礎を築いてしまった名盤の1つ。1973年当時の日本の大衆音楽となると演歌や歌謡曲、あってもフォークという時代に今のJ-POPとして聞いても全く違和感のない楽曲群はとんでもない衝撃。当時聞いた人はどんな衝撃を受けたんだろうか(といってもいきなりヒットしたわけではなく、深夜ラジオで取り上げられてそこから口コミで徐々に広まっていったらしい)。
そしてティン・パン・アレー(この当時は「キャラメル・ママ」名義)による演奏が曲の魅力を更に引き出している。メンバーは細野晴臣(ベース)、鈴木茂(ギター)、松任谷正隆(キーボード)、林立夫(ドラム)で、後に旦那になる正隆さんと、あとは後にYMOを結成した細野さんは有名だろうか。個人的にはリズム隊の絶妙にピッタリ合っていない演奏が奇妙なグルーヴを生んでいて好みだったりする。そして全員必要以上に主張しすぎないプレイが曲も相まって独特の温度の低さが出ており、ここが荒井時代における最大の魅力だなと思う。
最初のアルバムなだけにもちろん荒削りなところは多々あるけど、全員の才能に満ち溢れた名盤であることに揺るぎはなく、最初からこんなアルバムを作ってしまったのは驚異でしかない。よく「荒井時代は良かったけど結婚してからは...」と言う人を見るが、この時代にこの内容を作った功績という意味で考えるとそう言う人の気持ちも分かる(曲そのものに関しては昔も今も好きなものはたくさんある)。
おすすめ曲
ひこうき雲
ジブリの映画で使用されたことで一気に知名度を上げた代表曲の1つ。病気で夭逝した知人がテーマとなっているが、テーマの重さの割には曲自体は歌詞含めて淡々としており、感情表現として唯一「けれどしあわせ」と出てくるところが光っている。死を歌っている曲は後のユーミンでも度々登場するが、おそらくほとんどがフィクションであり、当時のユーミンのリアルタイムの感情を封じ込めたものとしてはこれがほぼ唯一になるかと思う。そういう意味ではとても貴重な曲。
恋のスーパー・パラシューター
内省的と言われることの多い1st,2ndアルバムにおいて唯一といってもいいほどの明るいアップテンポで一際印象に残る。派手なコーラスも派手なアレンジにばっちりはまっている。でも歌詞は「大好きな人と一緒になれたら死んでもいい」という内容でやはりこのあたりに10代でしか書けなかったであろう独特の感性が出ている。
きっと言える
これは聞けば分かるがとにかく転調が凄い。2小節ごとに3度上に転調するのを延々と繰り返しており、どんどんキーが上がっていったタイミングでの「あなたが好き きっと言える」で本当に好きな気持ちが溢れているかのような高揚感が出ている。歌詞とメロディが絶妙に絡み合った名曲。
雨の街を
このアルバムだと一番好きな曲。ユーミンの歌詞の最大の魅力は曲を聞いただけで情景が浮かぶような絵画的な歌詞にあると思うが、その魅力がこの曲では爆発しており、実際に経験したことなくても情景がまざまざと思い浮かぶ。そしてこんな叙情的な曲でも歌謡曲やフォークの匂いを微塵も感じさせないメロディセンスや演奏は流石としか言いようがない。