POP CLASSICO / 松任谷由実

「Babies are popstars」「雨に願いを」「シャンソン」等の要所要所の楽曲がストリングスを活用したクラシカルな楽曲になっているために劇伴・舞台音楽集のような印象を受ける。またここ最近は落ち着きを感じるアルバムが多かったが「Babies are popstars」「Hey girl! 近くても」等、特に前半にポップな印象を受ける曲が固まっており、まだまだ行けるのではないかという期待も持たせてくれる。まさに「POP CLASSICO」というタイトルに偽りなしといった感じ。90年代~00年代前半くらいまではポップな印象はありつつもやや息苦しさを感じさせる部分があったが、今回はストリングス等の生楽器を多用した柔らかさが全面に出ていることもありポップさと軽やかさがかなり高い次元で融合しているように思える。近年のアルバムはどれもトータルでは好印象とはいえこれといった1枚は決めにくいが、2010年代のアルバム(3枚しかないけど)の中では一番好きかも。

おすすめ曲

Babies are popstars

ややしっとりした切ないメロディと管弦楽器の演奏で始まるので何が起こるのかと思ったら歌が入ると急にポップな印象になるという、このアルバムのタイトルを最も体現した曲。この時点で間もなく還暦を迎えようというタイミングで今風のポップスをやるのも無理している感が出てしまうので、このくらいの着地点が一番しっくりくるように思う。生命の誕生をテーマにしたユニークな歌詞もとても印象的。

Early Springtime

ユーミンが作曲を始めるきっかけになったというプロコル・ハルムの「青い影」をオマージュしたイントロにニヤリとする楽曲。過去にも「ひこうき雲」(アルバム)の楽曲群とか「翳りゆく部屋」とかのような明らかに影響下にある楽曲はあったがこの曲は全開。

丁度前年のベストアルバムで「青い影」をカバーし過去を振り返ったことがきっかけでこのような楽曲が生まれたようではあるが、「青い影」もこの曲もしっとりと曲に浸ることのできる素敵な楽曲だなと思う。

シャンソン

曲名や「翳りゆく部屋」を彷彿とするようなパイプオルガンのイントロでやや構えてしまうが、歌が入るとひたすら繰り出される美メロが美しい。突然3連符が入って6小節で展開するAメロ、同じフレーズで転調を繰り返すBメロ、ストレートな美メロが展開するサビと、どこを取っても隙のない出来で魅了されてしまう。

Road Show / 松任谷由実

タイトルの通りここ最近のシンプルな作風に比べるとやや情景描写多めの絵画的な歌詞が多いアルバムで、80年代後半以降は抽象的な歌詞が主体となっていたこともありこういう感覚は「ALARM à la mode」以来かもしれない。ただ80年代に戻っただけではなく「バトンリレー」「ダンスのように抱き寄せたい」のように老いや円熟味を感じるのもこれまでとは異なる良いアクセントになっている。

また、このあたりからやや声に衰えを感じる部分が出てきており、この時点で50代も後半を迎えていたこともあり寂しい気持ちもあるが、かつて声質が変わってきたときにそれを生かした「真夏の夜の夢」「砂の惑星」のような名曲を生み出したように、今作も「ひとつの恋が終るとき」「ダンスのように抱き寄せたい」のようにその声すらも魅力に変えてしまう曲も出てくるようになった。このあたりの転んでもただでは起きない姿勢は本当に尊敬する。

おすすめ曲

ひとつの恋が終るとき

曲名通り失恋がテーマの曲ではあるがただ悲しんでいるわけではなくサビ頭の「強くなる」というフレーズやメロのキャッチーも相まって力強さを感じる曲。サビ終わりにAメロのメロディを一部持ってくる構成も地に足が着くイメージで力強さに繋がっているように思える。

今すぐレイチェル

全体的に歌詞が印象的なアルバムの中で比較的メロやサウンドの方が印象に残る曲。淡々とした打ち込みやオケヒの使い方が「命の花」を彷彿とさせ、個人的に結構好きなサウンドだったりする。更にサビはやたらとポップでキャッチーになるのがインパクトに繋がっているように思う。

最後だけ突然ボコーダーだけになるのはどういう効果なんだろうか……これなんでやったのか聞いてみたい(笑)。

バトンリレー

メロと歌詞の噛み合い具合が好きな楽曲。具体的にはBメロで素直に展開させずに「それでも それでも走っている」と焦らすところとか、サビで少しずつ上昇していくメロディに対して「長い時間をくぐりぬけ」「長い坂道のむこうに」という歌詞を当てるところとか。ここ最近は作詞作曲がうまく噛み合った印象的な曲はあまりなかったこともあり久々にシンガーソングライターとしての凄みを感じる曲。

ダンスのように抱き寄せたい

大ヒットベスト盤「日本の恋と、ユーミンと。」に収録された最新最後の曲であり、00年代以降はもちろん全キャリアの中でも5本の指に入る大名曲。前述の通り老いをテーマにしており、昔のようなダンスは踊れないけどそれでも愛する「あなた」といつまでも踊り続けるという内容。歌詞の一言一句がズバズバと突き刺さり感動して泣きそうになる。感動する曲はたくさんあるけど泣きそうになる曲はこれくらいかもしれない。パッと聴きの派手さはないけどアレンジに関しても後半から出てくるどっしりとしたドラムやストリングスが感動を演出している。

ここ最近はアルバムとしては好きなものは多いけど単曲レベルで大名曲と思えるものはあまりなく、ここまでの感覚は「春よ、来い」以来。ベストで聴いた時点であまりの名曲っぷりに驚いたけどアルバムを順番に聴くと久々の大名曲にメチャ感動した。当時リアルタイムで聴いた人どう思ったんだろうか。

そしてこの曲はユーミンの決意表明のようにも見て取れ、ユーミンもこの曲の主人公の通り昔のように歌えなくなっても正隆さんと曲を作り続け、歌い続けるんだろうなと思う。

そしてもう一度夢見るだろう / 松任谷由実

ここ数作あったような季節感は特にない、後の大ヒットベストアルバム「日本の恋と、ユーミンと。」への収録曲がない、ファンの間でも共通と思われる名曲はない(「人魚姫の夢」は紛れもなく名曲だと思うけど)、収録曲数は従来のデフォルトの10曲……といった感じで特筆すべきところが全くなく今までで一番特徴のないアルバムではあるが、00年代入ってからはアルバムトータルでは非常に味わい深いという部分はそのままであり、今回も非常に安心安定感のあるアルバムとなっている。

強いて特徴を挙げると「Flying Messenger」「人魚姫の夢」等の比較的歌謡曲に寄ったメロディが多めになっている。日本人に合うメロディということもあり個人的な位置付けとしては前々作「VIVA! 6×7」よりは印象的、「スユアの波」あたりと同じくらいの印象といったところ。アルバムとしての満足度は相変わらず高い。

おすすめ曲

黄色いロールスロイス

加藤和彦さんとのデュエット曲で、この曲の発表間もなく自殺したためおそらく生前最後に近い楽曲と思われる。度々出てくるギターサウンド系の曲ではあるが、アレンジも加藤さんが当時結成していたバンドでのアレンジとなっており、正隆さんは参加していない模様(プロデュースとしてのクレジットはある)。その影響かこれまでのユーミンのロック調の曲にあったダサさが全くない。ユーミンとしてはほぼ唯一無二と思われるキーボードの音がないバンドサウンドが楽しめる貴重な1曲。

Bueno Adios

こちらもユーミンとしてはかなり珍しいタンゴ調の曲。メロディがかなり歌謡曲に接近していることもあり、アルバムの中でもとりわけ印象的な楽曲になっている。特に昭和の頃は歌謡曲っぽいものは意図的に避けていたように思えるが、J-POPが主流となり歌謡曲が珍しい時代になったこともあり一周回ってこういうアプローチもありだなと思える。

人魚姫の夢

YUMING SPECTACLE SHANGRILA III」のための書き下ろし曲で、シャングリラの世界観に合致したかのような深みと貫禄を感じる楽曲。この曲も歌謡曲に近いメロディということもありアルバムの中でも一際強い印象を残している。人魚姫の叶わない恋を表現した歌詞も印象的で、個人的にもアルバムの中でダントツに好きな1曲。

A GIRL IN SUMMER / 松任谷由実

前作に引き続き夏を感じられるアルバムで、夏や海をテーマにした楽曲が半分近くを占めている。ただ前作よりもメロが格段に印象に残り、良い意味での落ち着きと貫禄が出ている。80年代あたりは楽曲そのものは凄かったとはいえ背伸びしたものが多かったし、00年代以降はアルバムとしてはいいけど楽曲のインパクトは強くないことが多かっただけに、良い意味で肩の力が抜けていて、楽曲のインパクトもあり、アルバムトータルの良さも感じられるというのはそれこそ「MISSLIM」「COBALT HOUR」以来じゃないだろうか。かくしてついに「荒井時代は好きだったけど松任谷姓になってからは……」という人にも自信を持ってオススメできる名盤が来たように思う。

個人的にもほぼ全ての曲を断片的にでも記憶することができたのは「天国のドア」以来で、80年代中盤の名盤連発していた時期にも肩を並べていると思う。正直このレベルの満足度の作品は90年代半ば以降もう聴けないだろうと思っていただけに、ここまで聴いてきて本当に良かった。

おすすめ曲

海に来て

「Valentine's RADIO」あたりを彷彿とする良メロにマイルドなアレンジが程よくマッチした佳曲(というか「Valentine's RADIO」もアレンジが違えば結構名曲だったんじゃないかと思うけど)。波のSEが入るのも曲の雰囲気に合っており、良い意味での孤独や感傷を感じることができる。

哀しみのルート16

00年代以降の曲で大ヒットベストアルバム「日本の恋と、ユーミンと。」に収録された数少ない1曲で(他は「幸せになるために」「acacia」「ダンスのように抱き寄せたい」)、オリアル時点ではタイアップもなく特に知名度もなかったようであるがベストアルバム収録で知名度を上げた模様。

タイトル通りドライブミュージックが現代に蘇ったかのような歌詞で、とはいえ当時のようなイケイケな作風ではなく、「あなた」と一緒にいた昔の国道16号線の風景を懐かしむというもの。この適度な感傷に浸れる感覚が非常に心地良い。ベストアルバムで聴いた時点で数多く収録されている80年代の楽曲と並べても全く違和感なく聴けて、後で00年代の曲と知って驚愕した。

サビ?の「思い出が多すぎて」以降の部分について、最初の3音のみオクターブ上のハモリだけを使っているのが今までに聴いたことがなく最初気づいたときは物凄いアハ体験だったが、元々メインメロとハモリ両方レコーディングしていたけど後でメインメロだけ削除した感じなんだろうか? 何故こうしたのか本人達に聞いてみたい。

もうここには何もない

「キャサリン」あたりを彷彿とする大げさなブラスアレンジや3連符のやや怪しさを感じるメロも印象的ではあるが、惜しげもなく良メロを突っ込んだサビがインパクト大の楽曲。「Sunrise, good days」のメロを8小節展開して終わりにしてもいいのに「いつまでもここに~」でさらにインパクトのあるメロが展開して驚いたところ最後のダメ押しで「倒れた砂時計のように」の部分まで展開するのが天才的。

これまで溜めていた分を放出するかのようにラスサビでは冒頭のメロを繰り替えすのも、「いつまでもどこに」で無音になるのも、無限のカタルシスを感じる。当時52歳にして大量のメロディを生み出しておいてまだこんな良メロが出てくるのか。凄いとしか言いようがない。

虹の下のどしゃ降りで

シングルで出た曲だけど聴いたことなかった。当時関東でしか展開していなかったSuicaのCMソングということでそりゃ聴いたことないに決まっている。Bメロの突然の転調が凄まじく「中央フリーウェイ」あたりに近い衝撃を覚える。「中央フリーウェイ」同様に安心安定のシティポップ風味のアレンジも好印象。

Forgiveness

3拍子→5拍子の変拍子っぽく感じられるサビの美メロが「ANNIVERSARY」を彷彿とさせる。彷彿とはさせるが「ANNIVERSARY」と同じにならないところも含めて、改めて言うまでもないけどやっぱり作曲家として天才なんだなと思わされる。

ついてゆくわ

シングルで出た楽曲で、これまでのアルバムにも1曲はあった「安心安定のユーミン節」枠。このアルバム基本的に夏や海をテーマにした楽曲が目立ってはいるが後半は安心安定ユーミン節の楽曲多めで、そこがアルバム全体の好印象に繋がっているように思う。

Smile again (Yuming Version)

2005年の愛知万博のテーマソングのセルフカバー。万博テーマ曲ということで歌詞はベタな内容で自分みたいな心が汚れている人は対象外ではあるが(笑)、この曲も安定のユーミン節で満足度は高い。

VIVA! 6×7 / 松任谷由実

前作の冬を感じるアルバムと対照的に今度は全体的に夏を感じるアルバム。とはいえギラギラとした暑い夏というよりは爽やかな夏といった趣で、このあたりは夏の感傷をテーマにした名曲が数多くあるユーミンだからこそだろうか。そういうこともあり、前作に引き続き、いやそれ以上にこれぞユーミンという作風となっている。

アレンジ面でも特に前半にストリングスやドラムの生音を多用しているのが特徴で、「ヨーロッパの薫り」というテーマも相まって優雅な雰囲気を醸し出している。80年代~00年代初頭くらいまで結構背伸びした印象のアルバムが続いたこともあり、全編安心して聴けるユーミンのアルバムが前作に引き続き誕生したのが感慨深い。正直これといった名曲はないこともあり全アルバムの中でもかなり印象の薄い1作ではあるんだけど、50歳を過ぎ30年も活動していると考えるとこれ以上無理に名曲を求めるのも野暮だろう。何よりもアルバムトータルで聴かせるというアルバムアーティストユーミンがしっかり戻ってきただけでも嬉しい1枚。

おすすめ曲

アルバムとしてはいいんだけどこれといった曲がこれまで以上になく何を挙げるべきか非常に迷うけど……この2曲。

Choco-language

モロに80年代アイドル歌謡っぽい曲で、ストリングスのゴージャスさや歌声に隠れてはいるがこういう作風はかなり久しぶり。「Ye Ye」「Woo Woo」の掛け声や「好きよ」の連呼等、80年代の楽曲にあったキャッチーさをほのかに感じさせることもあり、本アルバムで一番最初に印象に残った。

永遠が見える日

花火をテーマにした曲で、ユーミンが本能レベルで夏の名曲佳曲を送り出したのと同様、この曲も消えゆく花火の切なさが見事に表現されている。前作以上に横一線といった印象でこれといった曲が思い浮かばない中、唯一といっていいほど光っている私的ベストナンバー。

Wings of Winter, Shades of Summer / 松任谷由実

リゾート路線の代表格である「SURF & SNOW」のVol.2という触れ込みで制作された作品。ただし内容としては全くの別物で、冬の景色をしっとりと表現したアルバムとなっている(夏の曲もないこともないが全体的には冬の印象が強い)。むしろ全体的にしっとりとしている感触は「TEARS AND REASONS」あたりが最も近く、どれも佳曲揃いというのも「TEARS AND REASONS」と類似しているかも。

また10曲が標準であったユーミンのアルバムで7曲のミニアルバム形式というのもかなり異例。既存のアルバムフォーマットを下回る曲数というのは1981年の「水の中のASIAへ」以来となり、全曲ばっちりコンセプト通りである点も「水の中のASIAへ」以来かもしれない。全曲しっとりとしたコンセプトアルバムとなると後半にかけて飽きやすくなるという面もあるのでそういう意味では10曲を下回る曲数っていうのは丁度いいのかも。

そんなわけでここ数作とは全く異なる作品となっており、何よりも久々に良い意味で気負いのない、肩の力の抜けたアルバムになったと思う。こういう感触は少なくとも第2次ユーミンブームに差し掛かった1982年以降はあまりなかったと思うので本当に久々(「TEARS AND REASONS」「スユアの波」あたりもそれなりに肩の力は抜けている印象はあったけど今作はそれ以上かと)。言葉を選ばずに言うと、80年代以降「商品」となったユーミンはこのあたりで完全に賞味期限を迎え、改めて好きな音楽をやるようになった最初の1枚であったのかもしれない。

おすすめ曲

ただわけもなく

横一線なアルバムの中で一際メロディが綺麗な曲。Bメロでこっからサビが来るのかと思ったら一瞬焦らされてキャッチーなメロが出てきた後、ベタなメロディを繰り返すサビの流れが秀逸。

雪月花

しっとりとしつつもAOR~シティポップ系の曲が多いアルバムの中で唯一のバラードらしいバラード。ゆったりとした中にこれでもかというほど美メロが繰り出され、特に「春が来て 緑は萌えて」の転調のところは物凄いカタルシス。丁寧に歌われる歌詞の1フレーズ1フレーズも、ハープやベースがとても綺麗なアレンジも素晴らしく、最後の「哀しみにも時は流れ 海へと注いでゆく」のところはあまりの美しさに自然と涙がこぼれ落ちていくかのようなイメージ。というかベースがこんなに綺麗に感じられる曲なかなかない。

正隆さんから「バラードを作るように」と言われて5曲ほど作った中から厳選された1曲ということで、確かにそれだけのことはある名曲だと思う。21世紀に出た曲では相当上位に来る1曲。

acacia [アケイシャ] / 松任谷由実

1982年の「PEARL PIERCE」以来19年ぶりとなる夏発売、これまでほとんどのアルバムが10曲(一部9曲・11曲)だったのが突然14曲になる等トピックの多いアルバムではあるが、内容としては前作「Frozen Roses」の延長線上で多彩なアレンジが楽しめる。前作は普通のメロをアレンジで盛っていたのに対し、今作は曲の雰囲気を掴んで的確にアレンジした結果という印象で、前作よりブラッシュアップされたと思う。

ワールドミュージック路線の「哀しみをください」「110°F」、R&B/ソウル系で(当時)m-floのLISAさんをフィーチャリングした「リアリティ」、アコースティックな「acacia」、歌謡風味の「Lundi」、90年代初頭のハウス系の打ち込みを思わせる「7 TRUTHS 7 LIES」、ピアノ弾き語り「PARTNERSHIP」と、とにかくバラエティに富んだアルバムで、曲数が多いこともあるがその分好印象の曲も多い。実際ここらへんまではまだ売れてやろうと意思があったように思えるが今作もあまり売れなかったためか以降は外向きの曲は少なくなってしまう。商業作品としてのユーミンを色濃く残した最後の1枚と言えるかも。

個人的にこのあたりからリアルタイムでシングルの聞き覚えがある時期に来たため、やっとここまで来たかという感慨もある。最後に大名曲「PARTNERSHIP」で締められることもありアルバムとしての印象もここ最近ではかなり良い1枚。

おすすめ曲

MIDNIGHT RUN

ユーミンにしては比較的ギターが目立つ力強いバンドサウンドに乗せて「行く先もわからずに 走り続けていたんだ 恐くて」といった過去を振り返る歌詞が強烈。前作の「Now Is On」もそうだったけど常に先へ先へと進んでいたユーミンがこういう歌詞を書くようになったあたりに30年の重みを感じる。

acacia [アカシア]

この時期からは本当にベストに選曲されるような曲が少なくなっていくがその中でもいつもベストに選曲され有名曲の1つとして数えられるであろう数少ない1曲。個人的にはそこまで思い入れはないがアコギとバイオリンの綺麗な音色と丁寧な打ち込みのコラボレーションが素晴らしい。

幸せになるために

多彩なアプローチが印象に残るアルバムの中で唯一といってもいい安心安定ユーミン節。安心安定すぎてもう書くことなくなってるけどこの曲も感動を呼ぶ名曲。やはりアルバムの中に1曲はこういうのあると安心する。

サザン「TSUNAMI」、福山雅治「桜坂」のダブルミリオンを記録した「未来日記」タイアップのうちの1曲で、この曲も前後のシングルと比べるとヒットはしたが久々(にして最後)のTOP10入りかつ10万枚といった程度に落ち着いてしまった。ただ少なくともリアルタイムで接したユーミンの曲の中ではそれなりにヒットしただけあって一番印象には残っている。

7 TRUTHS 7 LIES〜ヴァージンロードの彼方で

90年代初頭のハウス系の打ち込みを思わせるアレンジで歌われるウエディングソング。当時と同様にTR-909っぽいドラムの音色で固めたアレンジや前作の「Rāga #3」でも使用されたオートチューンもそれなりにインパクトはあるがサビの5度を前後するメロディが歌上手くないとマトモに歌えないメロディで戦慄。音源では一応歌えてはいるけどこれ当時だとしても生歌どうだったんだろうか。

ドラマタイアップの主題歌でそれなりにかかっていた記憶はあるが、挿入歌でTOKIO長瀬さんが役名で歌った「ひとりぼっちのハブラシ」に印象を全部持っていかれたかわいそうな曲。どっちもいい曲なんだけどねぇ……。

PARTNERSHIP [after]

ピアノ1本で複雑怪奇なメロやコードに合わせて伴侶との人生を歌った深い1曲。ピアノ1本という全く誤魔化しのきかないアレンジで全く予測がつかないメロやコードが展開し続けて3分で終わるため、「うわーすげー」と思っている間に終わってしまう。シングルはもう少し色々とアレンジしているけどこれはピアノ1本の方が魅力が伝わると思う。あんまり売れなかったからかファン人気もあまり高くないみたいだけど、個人的には21世紀に出た曲だと「雪月花」「ダンスのように抱き寄せたい」「1920」あたりと並んで歴代ユーミンの楽曲でも相当上位に入る。

シングルで出た曲で当時シドニーオリンピックのタイアップだったみたいだけど全く聴いた記憶がなかった。確かにTVとかでパッと聴いただけだと魅力が伝わりにくい曲かもしれない。

それでもここ3作のシングルどれも90年代中盤と同じくらいのヒット性はあると思うんだけどドカンとヒットしなかったのは時代が悪かったよなぁ……。名曲だからヒットするとは限らないわけだけど、この3作に関してはどうにも巡り合わせの悪さを感じてしまう。