宇宙図書館 / 松任谷由実

タイトルは「これまでの記憶が全て図書館のようにしまわれておりそれが今の自分に繋がっている」という想いを表したもののようで、過去から度々出てくるスピリチュアルな側面が出たアルバムとなっている。確かに、もう会えない人を歌った表題曲や会いたい想いを歌った「残火」の2曲が冒頭に出てくるためにやや構えてしまうところはあるが、3曲目以降はいつも通り安心安定の曲が並んでおり(チープな打ち込み全開の「星になったふたり」と露骨にジャズな「月までひとっ飛び」だけ異端だけど)、そこまで全体的にスピリチュアル全開というわけではない。正直なところこれまで以上に印象的な曲が少なくなってしまったように思えるが、冒頭2曲があまりに名曲すぎてそれだけでお釣りが来るので相変わらず満足度は高い。

おすすめ曲

宇宙図書館

1曲目からここまでスローな曲は「悲しいほどお天気」収録の「ジャコビニ彗星の日」以来な気がするが、1曲目に置くだけのことはある渾身の1曲。もう会うことのできない「あなた」の記憶が夢の中で蘇るという内容で、「あなた」はもうこの世にいないように思われる。ただ、もう会うことができないと思われる理由が明確になく、幅広く受け取れる内容になっている。このあたりのさじ加減はやっぱり流石だなぁと思う。

残火

時代劇の映画のテーマ曲となったこともあり勇ましい印象が先行する、今作でダントツに派手な1曲。サビの美メロに合わせて「いつか きみと会いたい」と老いた声で叫ぶように歌うこともあり、もう届かない想いを歌っているかのように聴こえ、切ない気持ちになる。意図的だとしたら相当凄いが、これまでの計算され尽くしっぷりから考えると意図的なんだろうな……。近作あまりなかった強めのバンドサウンドもばっちりはまっており、ここ最近では自信を持ってオススメできる名曲。

GREY

3曲目以降はアルバムトータルとしてはいいけどこれと言う1曲が「紅雀」以上になく悩ましいところだが、強いて挙げるとこれ。「雨音はショパンの調べ」(この曲も日本語詞はユーミン)で有名な小林麻美さんへの提供曲のセルフカバーで、ドラムレスでシンプルな、全く主張しないアレンジが曲名と上手くマッチしている。1987年の曲らしいけど確かにアルバムの雰囲気と合っており、聴いた後にまたアルバム1周したい気分にさせられる。このタイミングでのセルフカバーも納得。