THE DANCING SUN / 松任谷由実

「Hello, my friend」「春よ、来い」のミリオンヒットシングルを収録したユーミン史上最大のセールスを記録したアルバム。ここ数作はセールス的にも内容的にも少々落ち着き気味であったところ(それでもずっと100万は売ってるから凄い)、「天国のドア」以来久々に打率10割を目指したかのような感触で、80年代中盤頃のアルバムにも近いような漲る自信を感じる。ここ数作はトップの座からは徐々に遠ざかっていたところであったためここで一念発起して名盤を作ろうと意気込んだものと思われる。

ただ結果的に「春よ、来い」という世紀の大名曲は生まれたが、さすがにややピーク過ぎたところから再度の打率10割というのは厳しく、なんとか4曲ほど奇跡のホームランは放ったけどそこで力尽きてしまったかのような印象。セールス的な上がりを迎えた「天国のドア」以降はどれも打率3割くらいの印象だったのでこれでも十分すぎるほど満足度は高いけど(というか打率3割でもプロ中のプロだけど)、明らかに奇跡の名盤を作ろうというオーラを感じてしまうので楽曲自体がそれに負けているのがもったいなく感じてしまうところ。

なんか色々前向きじゃない感想を書いてしまったけどドラマタイアップの4曲だけでもうお腹いっぱいでもうこれ以上食べられないので、それ以外の曲が小品として収まっているのはそれはそれでアリなのかも(といっても「RIVER」とか「Lonesome Cowboy」とかは他のアルバムに入っていれば結構上位の印象にはなりそうだけど)。有名曲が多数入っていることもあり、最初に入っていくにはオススメ。

おすすめ曲

というわけでその4曲。

砂の惑星

ここ数作は毎回入っているようなワールドミュージック系の作風であるが、エスニック風味の妖しいメロディに占いのおばちゃんのような声や過剰なビブラート、お経のようにメロディの動かないコーラスもあってもはや何か憑いているかのよう。ドラマタイアップとはいえここで初聞きだったんだけど、一回聴いただけで凄まじい勢いに引き込まれてしまったので、タイアップ抜きにそれだけのパワーを持った楽曲なんだと思う。

Good-bye friend

Hello, my friendのカップリング曲で、サビは表題曲と全く同じメロディと歌詞ではあるが相当に印象が違う。というのも、元々アイルトン・セナに捧げられた楽曲とのことで、歌詞を見てもこちらの方が「君」がいないことが明確になっているのでそこが印象の違いに繋がっているのかなと思う。

ラスサビ前にある「僕が生き急ぐときにはそっとたしなめておくれよ」も表題曲とメロディも歌詞も全く同じなのに全然聴こえ方が変わってくる。表題曲があまりに有名なので影に隠れがちであるが、個人的にこっちのほうが好きかも。

Hello, my friend

ミリオンヒットを記録した代表曲の1つで、先述した通り、Good-bye friendと同じメロディーというかそもそもGood-bye friendの方が原曲だったのが、ドラマサイドに作り直しを要求されて作り直した曲。Good-bye friendと比べると申し訳無さ程度の恋愛要素が小説の映画リメイクみたいな印象ではあるが、一般的にはこっちのほうが馴染みが良いと思うのでこれが正解か。いずれにしても夏の感傷を表現した切ないメロディだけでもうお腹いっぱいになるほど素晴らしい1曲。

春よ、来い

同じくミリオンヒットを記録した、言わずと知れたユーミンの中でも1,2を争う代表曲かつ1,2を争う大名曲。古語を多用した言葉遣いやサビで出てくる和音階を基調としたメロディ、しかし和を必要以上に強調しないアレンジなど、全ての要素が完璧に噛み合っている。個人的にも同じく春の大名曲「経る時」と並んでユーミンの中でも1,2を争う程好きな曲。

あまりにスタンダードな名曲なのでちゃんと聴くまでは名曲の1つ以上の感想はなかったが、アルバムを順番に聴いていくとこれが起死回生の一手であったことが分かる。しかもそれで大成功して後世に残るスタンダード性を獲得してしまうあたりに凄みを感じてしまう。ややピークを過ぎてきた中で凄まじい程の底力を見せつけた1曲。