14番目の月 / 荒井由実

前作で一歩踏み出したポップ路線に更に舵を切り、ポップシンガーとしての荒井由実の完成形となったアルバム。直後に正隆さんと結婚し、以降は松任谷名義での活動となるが、そこからOL路線に行き着くまでは試行錯誤を繰り返すので、初期のテイストを残した最後のアルバムということになるかと思う。

流石に前2作が凄すぎて(個人的に前2作は10年に1枚クラスの名盤を2枚連続で出してしまったように思える)そこに匹敵するとまではいかないが、それでもユーミンによるポップなメロディとティン・パン・アレーの演奏は 安定感がある。そもそもこの内容を1976年に出したと考えるとやはり凄いことには間違いない。

アルバムとしてはあまり通して聴くことはないものの、それでも表題曲をはじめとして「さざ波」「朝陽の中で微笑んで」「グッド・ラック・アンド・グッドバイ」等、曲の粒は揃っており、特に「中央フリーウェイ」「晩夏 (ひとりの季節)」の2曲は各所で絶賛されている通り、ユーミンを代表する大名曲だと思う。

おすすめ曲

中央フリーウェイ

名実共に代表曲かつ大名曲。曲名通り中央自動車道を調布~府中に向かってドライブする恋人という前作の「COBALT HOUR」の路線であり、「COBALT HOUR」同様にメロや演奏が神がかっている。特にメロについてはあまりに自然なのでパッと聞き分かりにくいが、サビの途中で転調しており、この転調は初めてちゃんと聴いたときに衝撃を受けた。歌詞も後に恋愛の教祖と言われる片鱗が見えるかも。

当時をリアルタイムで過ごした人にとっては相当刺さる曲らしく人気曲ランキング等でも上位に入ることが多い。個人的にも確かな名曲だと思う。

晩夏 (ひとりの季節)

以前の知名度はそうでもなかったようだが、後に平原綾香さんや秦基博さんにカバーされたことで一気に知名度を上げた曲。夏の感傷をテーマに曲を書かせたらユーミンに勝てる人はいないのではないかと正直思うが、まさにその通りこの曲も期待を裏切らない1曲。夏の残り香を見事に表現したような歌詞、メロディ、コード、アレンジ全てが完璧に噛み合っていて、これを名曲と呼ばずして何を名曲と呼ぶのかと言わんばかりの名曲。

実は最初聴いたときは「悪くはないけどやや地味かな...」という感想で、アルバム自体がちょっと散漫な印象になっている中で最後に来る曲ということもあり評価が高い理由が分からなかった。この曲に関してはじっくりと聴き入ることをお勧めしたい。